素晴らしく美しく、本物の自然を切り取り、かつ、自然への畏怖に包まれた作品。
村の人から長老とあがめられ、若い頃キャラバンの隊長をつとめてきた人物の息子が死んだ。キャラバン隊長という絶対の権力を譲った息子亡き今、その地位をどうするか。
息子の親友で長老とかつて対立していた男が周囲の信頼を得て隊長になった。しかし、進歩的で合理的な彼の考え方を長老は気に入らない。
まだ幼い孫に期待をかける長老は、無謀にも自分でキャラバンを出すことにする。
2人の対立は何を生むのか。
村はどうなるのか。
撮影は5000メートルを超えるネパール山中で、およそ8カ月をかけて行われた。
ここで見られるのは厳しい自然だけではない。ワンシーンごとの映像が、絵のように完成されている。
黄色い麦畑とヒマラヤ。
キャラバンの牛の群。
ベージュ色の地面に朱色の衣、そして、ターバン。
それもそのはず、長編第1作目というエリック・ヴァリ監督は、元はナショナル・ジオグラフィックの写真家だった。彼はこの地に魅せられ住み着いたのだという。
構図も色彩もきれいなはずだ。
さらに、驚嘆に値するのは登場人物が1人の女優をのぞいてすべて、そこに住む信仰心の厚い敬虔な人々だということである。
どうみても素人には見えない。自然体で、表情や顔が生きる力にあふれ、とぎすまされている。過酷な自然と共に生きると、こうした良い顔になれるのかと思う。
しかも、現在でもキャラバンは続けられているらしい。
生きるためにヤクに塩を積んでヒマラヤを越え、穀物にかえ交易して暮らしているというのだ。