アメリカや台湾を舞台にして女性を繊細に描いた作品の多かったアン・リー監督による武侠映画。
19世紀初頭、剣の英雄が群雄割拠する時代。許されない愛に苦しむ2組の男女がいた。400年前に作られた秘剣グリーン・デスティニー(碧名剣)の使い手として名を轟かせる英雄リー・ムーバイ(チョウ・ユンファ)と、その女弟子シューリン(ミシェル・ヨー)。もう1組、貴族の娘イェンと盗賊の頭ローもまた身分違いながらも惹かれ、激しく愛しあっていた。
彼らは英雄の剣をめぐる復讐のドラマの中で真実の愛を知っていく。
最も重要な役イェンを演じたチャン・ツィイー。そしてチャン・チェンがローを演じている。
ユンファとチェンも今までで最高のクールさだが、ヨーとツィイーの女性陣の気品も戦いぶりも男性以上にすばらしい。
とくに、二重、三重の引き裂かれの中で、自らの激情と戦いながらも死をもいとわない貴族の娘を演じたツィイーは、こんなに魅力的で最強の女性の存在は、めったに描けるものではないと思う。
「マトリックス」(’99)の世界的大ヒットで注目された香港きっての武術アクション監督ユエン・ウーピンだが、本作は彼にとっての原点ともいえるワイヤーワークとアクロバティックな技闘のコラボレーションの集大成といえる仕上がり。
ハリウッド的な誇張がない分、役者自身のしなやかな身体の躍動があり、かえって洗練されていさえする。
デジタル特殊効果をとり入れつつも、古典的なワイヤーワーク・アクションを駆使したこの作品の方が優れた映画的言語をもったものになっている。
例えば竹やぶでの戦闘シーンの美しさは息を呑むほどだ。
紫禁城全景や広大な砂漠の風景を飛ぶ主人公たち。背景全体を使った飛行シーンをワンシーンワンカットで捉えていく。
そののびやかな空間の移動、スクリーンを駆けめぐる主人公たちの動きは映画の快楽そのものだ。