不登校、学級崩壊、いじめ……そういった顕在化した問題をあげるまでもなく、思春期の子どもの想いを理解するのは難しい。
親は価値観を押しつけてはいないだろうか。周りの大人たちは何を見せればよいのか。深く考えさせられる作品だ。
横浜郊外に住む中学3年の大介(金井勇太)は、学校に通わなくなって半年がたつ。
ある日、両親に内証で九州の屋久島に縄文杉を見に行こうと決心し、ヒッチハイクをはじめる。果たして彼は、無事に遠い屋久島にたどり着くことができるのだろうか――。
大介は、旅を通じて大きく成長していく。見たことがない景色を見、いろいろな人の人生と接し、人生の悲しみやつらさを断片的ではあるが知ることになる。
そして、樹齢7000年の縄文杉に会ってエネルギーをもらいたいという夢を成し遂げることによって得る達成感。
つまらない人間だと思っていた自分だって、やり遂げることができるのだという自信がわいてくる。
作品中にでてくる詩がいい。
「――早く着くことなんか目的じゃないんだ。雲より遅くてじゅうぶんさ。この星が浪人にくれるものを見逃したくないんだ。――」
つい早いことが重要だと思ってしまいがちだ。
しかし、本当にそうだろうか。
立ち止まって、ゆっくり辺りを見回すことによって得られるものも多いはずだ。
今、大人が子どもたちにできることは、寛大な心で見守ること。
人間は自分を大切にし、愛し愛されるところからすべてがはじまるのだということを教えること。
そして、生きる姿を素直に見せることだろう。
大人が一生懸命に生きていさえすれば、その姿から学ぶことは多いはずだ。そのためにもまず、大人自身が居住まいを正し、自信をもった生き方をしなくてはならない。
学校シリーズも4本目になるが、それぞれが味わい深い。この作品もまた、山田洋次監督の愛が感じられる作品になっている。