原題は「BEING JOHN MALKOVICH」。つまり“ジョン・マルコヴィッチであること”。
マルコヴィッチとは90年代初めに『シェルタリング・スカイ』や『20日鼠と人間』などで頭角を現した本格派俳優。
この映画は“有名人になりたい病”を主題として扱っているが、その有名人が誰でも知っているディカプリオやトム・クルーズではなく、知ってる人なら知っているし、顔は知ってるが名前を知らなかったり、逆に名前は知ってるが顔は知らない人も多かったりするだろうマルコヴィッチをあえて選んだところに、ヒネリのきいた冴えがあると言える。
でもなぜ“穴”なのか?
物語の主人公は、才能には恵まれているが、なかなか成功できずに失意のどん底にある人形使いシュワルツ(J・キューザック)。
彼は妻(C・ディアス)の忠告に従って嫌々仕事を見つけるが、同じオフィス・ビルで働くマキシン(C・キーナー)に恋してしまう。ただし、彼女はほとんど相手にしてくれない。
ある日、そんな状況を一変させる出来事が起こる。偶然オフィスの一角に見つけた穴にシュワルツが入ってみると、驚くことに、15分だけマルコヴィッチの脳(?)に侵入し、あの有名人になることができたのだ!
シュワルツはマキシンと相談して、この穴を商売に使うことに決める。その後、マルコヴィッチ自身の抵抗にあったり、恋愛騒動が複雑さを増したり、物語は混迷の度合いを深めていく……。
このユニークな物語を見事に映画化したのは、スパイク・ジョーンズ。若きクリエーターだ。
天井をえらく低くして「不思議の国」じみたオフィス・ビルのセットを作らせたり、ディアスをノーメークで登場させたり……妥協を知らない完全主義ぶりを発揮して、今後の活躍を大いに期待させる。