交通事故の後遺症で、天才数学者の博士(寺尾聰)は、記憶がたった80分しかもたない。何を話していいか混乱した時、言葉の代わりに数字を持ち出す。
相手を敬う心を忘れず、常に数学のそばから離れようとしない。そんな、いささか風変わりな博士のもとで働くことになったシングルマザーの家政婦・杏子(深津絵里)。その10歳の息子(齋藤隆成)を、博士は、“ルート(√)”と呼ぶ。博士と語り合ううち、二人は数式の中に秘められた、美しい意味を知る――。
芥川賞作家・小川洋子のベストセラーとなった同名小説を、『雨あがる』の小泉堯史監督が映画化した。
この映画には、数学への憧憬や、数字の美しさへの心酔がちりばめられている。
ごく普通の人からみれば、数学者の振る舞いや、数字に意味を見いだそうとする行為は、奇異に思えるものだ。あまりにも純粋に率直に示される、博士の数学への深い愛情が、家政婦とその息子にも、だんだんとうつっていく様子がみてとれる。80分ごとに記憶をなくす博士は、常に相手を初対面として接する。けれど、そこには人としての佇まいの美しさがある。
原作の面白さ、魅力をあまねく引き出しながら、また違った、映画ならではの世界を構築している。主だった登場人物は、たった5人。長じて、数学教師となった“ルート”を演じる吉岡秀隆と、浅丘ルリ子を加えた5人の役者たちは、どの一人が欠けても、均衡が崩れるかのような、絶妙な緊張感で存在する。
数学になぞらえていうならば、それぞれが素数の美しさ(!)を保ちながら、互いに慕わしさをかもしだしている。
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