サイコスリラーの秀作「メメント」「インソムニア」などを監督した、新進気鋭の映像作家であるクリストファー・ノーラン監督による「バットマン ビギンズ」。
本作では、バットマンの誕生秘話や、バットマンがゴッサム・シティの「闇の騎士」になるまでを追っている。
これまでスクリーンで語られなかった、ブルース・ウェインがいかにしてバットマンになったか、というバックグラウンドが初めて明かされる。
不気味な分身を生み出すために、彼がなぜ、どうやって戦闘力を身につけ、バットマンツールを手にしていったのかが……。
バットマン=B・ウェインを演じるクリスチャン・ベールは、これまでで最高にクールで、現代的、孤独なヒーロー像を築いている。
とりわけウェインが、自分の分身としてのバットマンのイメージ戦略を練る所は広告代理店そのもの。
バットモービルやコウモリ型のロゴマークを考案するあたりの、フェティッシュな物への偏愛ぶり、なんでも黒に塗りたがる色へのこだわりぶりは、ベールの出世作「アメリカン・サイコ」を思い出させて、面白い場面となっている。
そして、数々の特殊装置の開発を手助けするのが、ウェイン社開発部門に勤務するフォックス(モーガン・フリーマン)だ。
彼が生真面目な調子で、中国にバットマンマスクを発注したり、まるでドラえもんのように、次々とバットマンツールを作り出す様子が楽しい。
最初にコミックに登場してから60年余り、アメリカン・カルチャーの象徴でもある「バットマン」。
思いきり現代的な味付けで明かされる謎の、不思議なリアリティーが絶妙だ。