アメリカの中流家庭を舞台にして、現代人が抱える閉塞感、倦怠感に押しつぶされる家族の人間模様をコミカルに、そして残酷に描き出している。
郊外の新興住宅地に住むレスター・バーナムは、雑誌社で広告の仕事をする中年サラリーマン。住宅ローンを抱えながらリストラの風にさらされる。一方の妻キャロリンは、そんな夫にうんざりしながらも不動産のブローカーとして敏腕を振るい、家ではおしゃれな生活にのめり込んでいく。そして一人娘のジェーンは、怒りと不安に揺れる典型的なティーンエージャーだ。
ある日、レスターはジェーンの友達アンジェラを一目見た途端、メロメロに。娘の軽蔑を一身に受けながらも、アンジェラへの思いは募るばかり。他方、欲求不満のキャロリンは、同業者の“不動産王”に急接近。そして二人は、ついに危険な坂道を転げ落ちることに……。
主人公を演じるのはケビン・スペイシー。初のダメ男役に挑み、もうひとつの顔を見せてくれる。キャロリン役のアネット・ベニングも、いままでのゴージャスなイメージを一変、自ら描く“サクセスストーリー”にとりつかれる見苦しい女を体当たりで演じる。
監督は、イギリス演劇界で活躍する新進気鋭の演出家サム・メンデス。本作で監督デビューを飾った。テレビのコメディー・ライターとして名をはせたアラン・ボールが書き下ろした脚本は、不思議な世界をつむぎ出し、登場人物の内面の葛藤(かっとう)を巧みに表現している。
ゴールデングローブ賞で最優秀作品賞、監督賞、脚本賞に輝いた。
“アメリカン・ビューティー”とは、映画の中で、キャロリンが栽培している米国産の赤いバラの名前。美しいバラは、見る者を魅了する。しかし、そこには鋭いトゲが潜んでいる――。
豊かで享楽的な社会を土壌に咲いた甘美な“バラ”。その魅惑的な刺激のとりこになり、運命の歯車を狂わせていく、悲しくもこっけいな人生……。しかし、途中までのコミカルな色を交えた展開から一転、ラストシーンの衝撃的な結末によるコントラストは、現代にあって自覚しがたい人間の“喜劇的な悲劇性”を見事に浮かび上がらせている。